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 日本のがん免疫療法の進歩

2015年12月8日

日本人の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで命を落とす時代に、がんの治療法が画期的に進歩しています。

これまでのがんに対する標準治療は、外科手術、薬物治療、放射線治療が中心で、各々の治療法も以下の通り進化しています。

外科手術については、開腹手術から腹腔鏡手術へ進化し、さらに前立腺がんでは細やかな操作が可能なロボット手術の割合が増えてきています。

薬物治療については、副作用が出やすい抗がん剤からがん細胞だけを狙い撃つ分子標的薬が主流となっています。

放射線治療については、正常細胞にも放射線があたるエックス線放射から、がん細胞にピンポイントで照射する陽子線、重粒子線治療の実施数が増えてきています。

こうした標準治療に対して、先進医療と言われるのが免疫療法です。薬物治療を画期的に変えるのも免疫治療薬であり、2014年9月にはがん免疫薬の日本第1号薬である悪性黒色腫薬オプジーボが発売され、他にも様々ながんに対するがん免疫薬が開発されています。

免疫とは病原体やがん細胞などの異物を排除する機構で、免疫療法はがんを異物として攻撃する免疫システムを利用した治療法です。

その治療効果はがん種や患者によって限定的であり、現在は第4のがん治療法として公認されるには至っていませんが、国内外の大学・公的な研究機関、製薬会社の研究、開発によって、日々目覚ましい進展が見られます。

その中で、がんワクチン療法や養子免疫療法についての評価・検討が進められています。

がんワクチン療法は、人工的に合成したがんペプチド(がんの目印)を患者に投与して、体内でがんを狙い撃ちするリンパ球や抗体を作らせるがん治療法です。アメリカでは前立腺がんに対するがんワクチン療法がFDAに承認されています。

養子免疫療法は、患者のリンパ球を体外で活性化・増殖した後体内に戻し、がんに対する免疫反応を増強させるがん治療法です。

しかしながら、ほとんどのワクチンが研究開発段階であり、日本においては各地のクリニックにおいて、自由診療で行われている場合が多く、標準治療としては確立していません。

これらのがん免疫療法は、強制的にがんに攻撃する治療法ですが、がん細胞もある程度成長すると免疫細胞からの攻撃にブレーキをかける分子を出現させます。そのブレーキを解除するのが免疫チェックポイント阻害剤であり、これにより良好な治療結果が出ることが期待されています。

この免疫チェックポイント阻害剤は、治療効果が高く、長く持続しますが、いくつかの要素がなければ有効性が発揮されない面もあります。そこで有効性を高めるために、遺伝子組み換え技術を利用して、通常の免疫細胞をがん特異的に変化させ、がんを攻撃する免疫細胞を人工的に創り出す研究がされています。この研究の最先端が、CAR-T細胞療法と言われるもので、患者自身の免疫システムを使う免疫療法に、遺伝子の調整技術を加えたものです。実際には、患者の免疫細胞を取り出し、その遺伝子を組み換えて実験室で培養した後に患者の体内に戻します。遺伝子を改変された免疫細胞は、がん細胞上の抗原を認識しこれを標的として攻撃します。日本国内においても、このCAR-T細胞療法を開発する、国立がん研究センター発のベンチャー企業が現れるなど、次世代のがん免疫療法研究が活発に行われています。

平成25年5月、「再生医療を国民が安全かつ迅速に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」(再生医療推進法)が公布され、がん免疫細胞療法も含めた再生医療の包括的な枠組みと、開発・承認のための迅速化への法整備が進むようになりました。また同年11月、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(再生医療等安全性確保法)と「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医療品医療機器等法)が公布され、「安全な細胞医療を迅速かつ円滑に」、「多くの製品をより早く」の方針が出されました。

こうした後押しにより、新薬の承認へのスピード化が実現し、日本国内の企業や研究機関によるがん免疫細胞療法の研究開発が、世界に先駆け治療結果を数多く出すことが期待されます。

(経営コンサルティング部)

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