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 日中企業連携の交渉留意点

2013年7月18日

昨年9月の日中領土問題以来、日本企業の中国撤退可能性についてのメディア報道をよく目にします。しかし、中国と関係を持つ日本企業のトップや現地責任者の方などとの情報交換や緊急アンケートの結果などを勘案すると、業容問わず最終的な撤退を判断した日系企業の数は予想以下のレベルに留まっていると言えます。

現在中国の民営企業数は1億社を超えており、人口は13億人、ネット人口は5億人、一人当たりGDPでは日本との開きが10倍以上とどの数字を取り出しても、また、その市場プレイヤー数や国際化の状況を見ても、今なお世界一競争が激しく高いポテンシャルを残した市場と言っても過言ではありません。多くの日本企業もそのスピードについていくために地場企業との提携を大きな経営戦略として位置づける必要性を感じています。

ただ一方で、昨年9月の領土問題以前の推移である2012年度第一四半期と同年第二四半期を比較しても日本の対中投資件数は約4分の1と減少しており、上記の日中企業を取り巻く経済状況に比してこれからの日中企業提携が「期待よりも盛り上がっていない」とも言えます。私は数多くの日中M&Aを支援してきた経験から、その提携交渉過程において以下に述べる留意点があると考えています。

1. 中国企業の価値観が理解できない
日中提携において最初の障害となるのは、日中価値観の違いです。提携交渉において日本企業から頻繁に耳にするのは、「自分たちが望む水準のデータを迅速に出してこない」「本格的交渉に入っていけば入っていくほど、入り口部分で見せた意欲が減退していくように見える」など、中国側の意識の低さを指摘する発言です。この背景には、日本企業と中国企業の第三者に対する“初期的信頼度”の違いが考えられます。中国は歴史的経緯もあり、国内外を問わず初期段階から他企業を信頼する発想は比較的少なく、相手が自分のアクションに対するリアクション及びその速さを慎重に観察しながら、交渉を進めていきます。つまり、中国側のアクションは、中国側から見た日本企業に対する信頼度数を表現していると捉え、一度立ち止まってそのリアクションを考える必要があります。

2. 中国企業との提携イメージが明確になっていない
中国側の後出しの情報や新たな条件提示に戸惑い、交渉成立後に期待していたシナジーがうまく発揮されない、ということが往々にしてあります。こういったケースでは、日本企業側の提携目的、中国側に求める役割、シナジーイメージなどが交渉段階において明確でないことが多々あります。結果として、提携候補のイメージがはっきりとせず、M&A仲介会社や金融機関などから強く紹介された中国企業と安易に交渉を進めてしまうことになります。さらに、交渉における軸が定まっていないことから、不利な立場に持っていかれる可能性も高くなり、交渉破綻、提携解消につながります。「薄く広くアンテナを張りたい」という姿勢も理解できますが、その前提として、自企業のスタンスを明確にしておかなければ、情報に振り回されて立場を堅持するための工夫が希薄になっていきます。

3. 相手の利益を考え、明確に伝えていない
上記1.の心構えを持ち、2.の整理を行った上で、中国企業を真剣な交渉の場に引っ張り込むには、相手にどのようなメリットがあるのかを整理し、明確に提示することが重要です。日本企業同士では、メリットを明確に伝えずとも“あうん”の呼吸で伝わることがあるのですが、日中交渉でこの部分をおろそかにすると、「日本側は真剣に提携する気があるのか?」と、疑心暗鬼な状態をつくりだすことになります。言い換えれば、中国では、相手を理解することよりも自分を理解してもらう姿勢がまず大事になります。実際、日本企業の中国企業に対するパートナー意識の欠如を指摘する声を中国国内でよく耳にします。中国企業に対してどういうWINが与えられるのかを考え、共に市場を開拓していくパートナーとしての意識と言動をコントロールしていくことが重要になります。また交渉を有利に働かせる上でも、相手に対するメリットを整理し、それを交渉材料としてコントロールしながら伝えていくという意識は重要です。 

4. 提携交渉中と交渉後のコミュニケーション方法を確立できていない
提携交渉後に満足のいく結果を得られる企業は多くはありません。しかし、十分なシナジーを得ることができている企業は、共通してその成功要因をコミュニケーションの継続性に見る傾向があります。特に変化の激しい中国マーケットでは、提携後のプラン修正を迅速に行えるかがキーポイントとなります。その時々において蓄積された状況を踏まえて、スピーディーかつ臨機応変に日中意見のすり合わせを行える体制を整えるためには、
①経営の重要事項の決定に関わるメンバーが長期間変わらないこと
②日中の日常的なコミュニケーションが高い頻度で取られていること
③提携の体制強化、リスク管理、実行管理など提携に関するプランニングと実行を絶えずウォッチできるチーム及びメンバーがいること

などのポイントが重要です。提携前の交渉段階で、中国側との意思疎通とすり合わせを継続してできているか、根本的な経営の価値観が同じ方向を向いているかなどを直接中国側と何度も会うことで、納得いくまで直に検証することが大切です。コミュニケーションが同じ歩幅でとれることは、提携後の様々な問題を共に解決する土台となります。
昨年9月の領土問題より、中国の投資家や企業関係者は、「ここから日本企業が中国企業や市場をどう巻き込んで事業展開を図るのか?」と、高い関心を持って日本企業を見ています。日中企業双方が連携を図り、“共に市場を創造・開拓していく”という発想の下に交渉に臨む姿勢を見せることこそが、今後の中国市場攻略の鍵となると考えます。

(江本真聰)

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