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 環境汚染と向き合うベトナム、日本企業にチャンスも

2013年3月12日

最近日本のメディアを賑わす新興国の環境問題と言えば、中国の大気汚染(PM2.5)の話題に尽きると思うが、「China+1」の筆頭とされるベトナムでも環境問題は大きくクローズアップされている。経済成長に伴う問題として、先日はNHKワールドWaveTonightでも大きく取り上げられた。そこで印象的だったのは、問題解決の一端として日本の取組みについても紹介されていたことだ。  

従来から日本企業の海外活動を支援しているJETRO(日本貿易振興機構)はもちろん、経済産業省を始めとした各省庁、更には開発途上国への政府開発援助(ODA)の実施機関であるJICA(国際協力機構)も多くの日系中小企業支援スキームや、ODAプロジェクトとの連携で、海外、特にアジア新興国を始めとした途上国への進出を支援している 。その中でも、途上国が発展していく上での開発課題であり、日本に多くの技術や経験が蓄積されている環境分野は最も注目されるセクターである。  

工業団地など各種工業の生産拠点からの産業排水に加え、生活排水など、問題も多様である。近年関心の集まっているのは、これまで手がほとんど付けられてこなかった医療排水処理の問題で、各種の病原菌、医療廃棄物の処理も合わせると周辺環境への影響は非常に大きい。今年1月、ベトナム第3の都市ダナン市の病院からの医療排水が住民生活に影響を与えているとして現地メディアが報じた 。法規制は十分厳しい(日本と同等、あるいはより厳しい基準も多く、色など日本には無い規制も)が、十分に執行が行われていないベトナムでは、住民被害とそのメディアへの露出による社会的制裁が、環境問題に取り組む最も大きな動機となっている。  

そうしたなかで、日本企業の持つ環境技術に対する期待はベトナムでも非常に高い。筆者が先日、ベトナム商工省と協議をした際、同省の幹部は「ベトナムがTPPに加盟することで、現在中国に投資している企業が多く生産拠点を移してくる可能性があるだろう。その一方「汚染企業」も入ってくるかもしれない」との懸念を示していた。染色過程の汚染水が大きな問題となる紡績業は代表的な例だ。ベトナム企業、外国企業ともベトナムでの生産には積極的だが、地方政府側も環境汚染が激しい企業は受け入れられないとしている。
地方政府の環境意識の高まりもあろうが、住民被害、更にはそれがメディアに報道されることによる政治的・社会的インパクトの大きさが、地方政府の指導者にも浸透してきたのかもしれない。ビジネスチャンスを自らの手にたぐり寄せるためにも、環境技術への投資は避けられない必要経費であるという考えが受け入れられる素地ができ始めている。

環境問題にどれだけ投資が行われるかという行動変化には多くの要素が関連するが、法規制、取締、住民の意識の高まり、メディアの役割、企業の社会的責任の高まり等を考えると、ベトナムでも環境に優しい技術の導入が進むのは必然であろう。一方で、日本企業としてのハードルは低くはない、特に世界レベルで環境技術を比較できる現在、欧米や中国、韓国などとの競争の中で技術的な優位を示す努力が不可欠となる。コスト削減も求められるであろう。ただ、技術に対する信頼、「日本ブランド」がまだ十分息づいている今がチャンスかもしれない。

(今井 淳一 )

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