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 総額1.9兆元(約38兆円)の水環境ビジネス市場が形成される

2015年7月8日

2015年4月、中国国務院は国家環境保護部が制定した「水質汚染防止行動計画」を公表した。同計画には10条35款258項目の具体的な措置が盛り込まれており、中国政府として中長期的な水質汚染改善目標を示した。

水質汚染防止行動計画には10の対策を打ち出しているため、略称として「水十条」とも呼ばれている。
10の対策は下記の通りである。
 ①汚染物質の排出を全面的に制御する。
 ②経済構造の転換・アップグレードを推進する。
 ③水資源保全・節約に注力する。
 ④科学技術のサポート機能を強化する。
 ⑤市場メカニズムの役割を十分に発揮する。
 ⑥環境保全関連法律の執行と監督管理を厳格に行う。
 ⑦水環境管理を着実に強化する。
 ⑧水生態の安全性を全力で保障する。  ⑨関係各方面の責任を明確化し、確実に履行させる。
 ⑩国民の参画と社会的監督を強化する。

「水十条」は、2020年までに、①長江、黄河、珠江、松花江、淮河、海河、遼河など7つの重点河川流域におけるⅠ~Ⅲ類の水質基準を満たしている水域の割合が全体の70%に達すること、②地級(地区レベル)都市の水質がⅤ類以下の汚染水域は全体の10%以下に抑制すること、③93%以上の地級都市の集中式飲用水水源地の水質はⅠ~Ⅲ類の水質基準を満たすこと、④地下水水質がⅤ類以下の地域の割合は全体の15%前後に抑制すること、⑤沿岸海域におけるⅠ~Ⅲ類の水質基準を満たしている水域の割合は全体の70%に達すること、⑥京津冀(北京市、天津市、河北省)地域の水質がⅤ類以下の汚染水域を15%程度削減させること、⑦長江デルタ、珠江デルタなどの地域の水質がⅤ類以下の汚染水域を一掃すること、また、2030年までに、①7つの重点河川流域におけるⅠ~Ⅲ類の水質基準を満たしている水域の割合が全体の75%に達すること、②地級(地区レベル)都市の水質がⅤ類以下の汚染水域を一掃すること、③95%以上の地級都市の集中式飲用水水源地の水質はⅠ~Ⅲ類の水質基準を満たすこと――を目標としている。

具体的な対策措置は簡略にまとめると下記の通りである。

(一)製紙、コークス、窒素肥料、非鉄金属、染色、農産品加工、原料薬製造、製革、農薬、メッキなどの10の重点業界において、それぞれ特別対策案を制定し、クリーン改造を実施する。上記業界の新設・改造・増設建設プロジェクトを対象に、汚染物質排出量の等量もしくは減量置換措置も実行する。

(二)経済技術開発区、ハイテク技術開発区及び輸出加工園区など産業集積園区の汚染防止対策を強化する。対象園区内の産業排水は排水集中処理施設に移送する前に関連排出基準を満たすように前処理をしなければならない。新設または昇格する産業園区は排水、ごみ集中処理処分施設を同時期に設計・建設しなければならない。
2017年末までに、産業集積園区は規定に基づいて排水集中処理施設を建設したうえ、オンラインモニタリング装置を取り付けなければならない。京津冀地域、長江デルタ地域・珠江デルタ地域などの地域に位置する産業園区はさらに1年前倒して完成させなければならない。期間中に完成できない場合、該当園区の水汚染物質排出量の増加につながる関連建設プロジェクトの審査承認を一時停止するとともに、関連規定に基づいて該当園区の産業園区資格を取り消す。

(三)都市下水処理施設の建設と改造を加速する。2020年末まで、既存の都市下水処理施設は適材適所で改造を行い、 該当する排出基準や再生利用要求を達成しなければならない。重点対象地域(重点湖沼、重点ダム、近岸海域の河口水域)の都市下水処理施設の処理出水水質は2017年末までに1級A排出基準を達成しなければならない。都市部の水域の水質はⅣ類の地表水基準を満たせない場合、新設都市下水処理施設は1級A排出基準を実行しなければならない。2020年までに、全国の全ての県城(県政府所在地)と重点町村は下水収集処理能力を備え、下水処理率はそれぞれ85%、95%台になる。京津冀地域・長江デルタ地域・珠江デルタ地域などの地域においては、1年前倒して達成しなければならない。

(四)汚泥処理・処分を推進する。下水処理施設から発生する汚泥の安定化、無害化と資源化処理・処分を行うべきであり、基準を満たさない処理・処分済み汚泥の農耕地への使用は禁止する。2017年末までに既存汚泥処理施設の関連基準を達成するための改造を基本的に完成しなければならない。2020年末までに地級以上の都市の汚泥無害化処理・処分率は90%以上に向上させなければならない。

上記の産業及び都市下水処理対策が実施される際、そのうちの一部の分野、たとえば①産業排水処理分野の重金属排水処理、②膜分離による水処理、再生利用、③汚泥処理(乾燥、炭化資源化利用)などにおいて、日本企業は競争力のある技術もしくは高度な技術を持つため、ビジネスチャンスが大いにあると考えられる。

中国環境保護部の専門家の試算によると、「水十条」の目標を達成するには、環境設備およびサービスを購入するための直接投資が1.4兆元、関連投資が0.5兆元必要となる。言い換えれば、今後数年間で1.9兆元(約38兆円)規模の巨大な水環境ビジネス市場が形成される。水環境ビジネスは新たな経済成長リード役の一つとして経済の安定成長、産業構造の調整および国民生活の改善に寄与することが期待されている。

(胡 俊杰)

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