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 AIIBとTPPでフィリピンの決断が示す中国の影響力

2015年4月20日

ニューヨーク・タイムズ紙は、中国がアジアにおける日本の最大のライバルだとしているが、今後もそうだとは限らない。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とAIIB(アジアインフラ投資銀行)でのフィリピンの決断は、中国と日本の今後を占ううえでも興味深い。

中国と海洋の領有権問題を抱えるフィリピンは2014年10月24日、AIIB設立の覚書に調印。米国が提唱するTPPについては、アキノ大統領が14年4月、オバマ大統領と会談した際、TPP参加に前向きな姿勢を示していた。しかし、AIIB参加の一応の締め切りとされた今年3月31日の前日、日本経済新聞の取材に応じたフィリピンのドミンゴ貿易産業相は、16年6月までの大統領の任期中にはTPPに参加しない意向を表明した。国内法や憲法の改正など必要な法整備が間に合わないことが不参加の理由のようだが、それだけではあるまい。

AIIBへの高い期待は、参加国を見ても分かる。中国政府は4月15日、創設メンバーが57ヵ国に達したことを明らかにした。G7では、米国、日本、カナダを除く4ヵ国が参加しているが、カナダはAIIBへの参加を積極的に検討していることを明らかにした。

中国がAIIBを主導する理由は、はっきりしている。アジアにはインフラ建設の巨大な需要があり、中国製機器・設備の輸出市場として期待がかかる。AIIBは、輸出促進の一環として中国が進めようとしている「一帯一路」(One Belt and One Road)とも密接に関係している。「一帯一路」は、「シルクロード経済帯」と「21世紀海上シルクロード」で構成され、陸上と海上において中国の周辺国家との経済・貿易関係を拡大・強化することをねらったものだ。

こうしたなかで、国産機器・設備の輸出拡大にあたって中国政府が打ち出したのが「製造強国戦略」。中国の製造業は、先進国と途上国に挟まれ、両者から挑戦を受ける構図になっている。このため李克強首相は今年3月の全人代で、従来の「製造大国」から「製造強国」に転換する方針を表明した。労働集約的な単純なモノづくりから付加価値の高い産業への転換をめざす。中国製造業の今後10年間の計画などを盛り込んだ最上位の国家計画・ロードマップである「中国製造2025規画」の作成が行われており、近いうちに国務院に提出される見通しとなっている。

高付加価値のモノづくりに転換しない限り、中国は新しい富を生みだす力を失っていくとの指摘がある。モノづくりに支えられた技術力が蓄積され、さらに中長期の研究開発を積極的に行えば優れた商品やサービスを生み出すことができるとの見方もあるが、習近平政権が目指しているのはまさにそうした方向だ。

中国は、経済が「新常態」に入るなかで、AIIB、「一帯一路」、「製造強国戦略」によって大転換をはかろうとしている。中国がその先に見据えるのはアジアの覇権獲得であろう。

(窪田 秀雄)

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