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 中国の排出権取引制度はどこに向かうか

2014年4月15日

排出権取引制度の始動

2009年12月にコペンハーゲンで開催されたCOP15で、中国の温家宝総理(当時)は中国の温室効果ガス排出水準を2020年までに2005年比で40%~45%削減(単位GDP当たり)する目標を公表した。その後、翌年3月に批准された第12次5ヵ年計画(2011年~2015年)には排出権取引市場を設立することが明記され、さらに2011年10月に公表された「国家発展改革委員会弁公庁炭素排出権取引パイロット事業実施に関する通知」では、北京市、天津市、上海市、重慶市、広東省、湖北省、深セン市の7ヵ所で排出権取引のパイロット事業を行うことが決定された。中国の排出権取引の制度構築は本格的に始動した。
パイロット事業を実施する7省・市では、対象産業と企業の選定、登録システム及び取引プラットフォームの整備、排出量の査定、割当量の配分、第3者審査機関の選定作業などを進め、2014年4月までに北京市、上海市、北京市、広東省、天津市、湖北省で順次取引を開始した。今後重慶市でも取引が開始する予定である。他方、杭州市、青島市など中央政府のパイロット事業に指定されなかった地方都市でも排出権取引制度の設計と取引開始準備を試みている。
国家発展改革委員会は第13次5ヵ年計画期間中(2016年~2020年)に全国範囲で排出権取引を行う計画を進めている。
中国政府は排出権取引制度の構築で市場メカニズムによる温室効果ガス削減コストの低減を目指している。大気汚染とエネルギー消費、エネルギーの海外依存度問題が深刻になっている中国で、排出権取引制度の導入は産業構造転換、イノベーション促進など気候変動対策以上の効果が期待されている。

展開シナリオ

中国の排出権取引制度は現在パイロット事業段階にあり、国家発展改革委員会は地方版制度の試行錯誤を経て全国範囲での展開を目指している。今後は主に以下の3つのシナリオが想定される。
シナリオ1は、7省・市で推進されているパイロット事業の状況を踏まえ、第13次5ヵ年計画期間中に地方版制度を廃止し、全国版排出権取引制度に収斂することである。このシナリオは国家発展改革委員会が目指す方向でもある。
シナリオ2は、主要地方の排出権取引制度を周辺省・市に広げ、全国範囲で複数の地方拡大版排出権取引制度が併存することである。中国政府は5年ごとに各省の排出削減率を定めており、削減目標の達成状況は省長(都道府県知事に相当)の業績評価に直結している。全国版排出権取引制度の導入が遅れた場合、主要地方政府は独自で地方版排出権取引制度を拡大するであろう。
シナリオ3は、産業界の反発拡大、中国経済の急速な減速などの要因により排出権取引制度の本格的な全国導入が遅れること、さらには廃案になることである。
2020年までに2005年比40%~45%削減(単位GDP当たり)する目標は国際社会に対する中国の公約であり、簡単に破棄することは考えにくい。また、その実現には市場メカニズムが最有力の方法として考えられ、排出権取引制度は有効な方法であると中国政府は評価している。中国政府はこれから3~5年間はパイロット事業をメインに地方版排出権取引制度を推進し、その後は次第に全国版に移行するであろう。

日本への示唆

中国の排出権取引制度の導入は日本企業にとってチャンスであると同時にリスクも伴う。排出権取引制度の導入は省エネ、排出削減に繋がる環境技術、省エネ・新エネ技術へのニーズが高まり、同分野で優位性を持つ日本企業には追い風になるであろう。しかしながら、中長期には政策の安定化と市場の拡大に伴い、中国企業も環境技術、省エネ・新エネ技術への投資拡大と本格的な能力構築を進め、日本企業のライバルとして浮上することになる。
一方、全国版排出権取引制度の展開により在中日系企業の一部も取引対象企業になる。1万社以上に上る在中日系企業の一部とはいえ、取引対象企業は参加コストを負担することになる。さらに、在中日系企業は同制度への理解促進と対応能力強化が迫られるであろう。

(金 永洙)

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